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情報保存Q&A  24. 水損資料の乾燥

Q1 水損した本や文書を乾燥するときにあらかじめ知っておくべきことは何ですか?

水に濡れてしまった本や文書を乾燥するにはいくつかの方法がありますが、ひとつの方法で水損資料の全てを乾燥に持ち込めることは滅多にありません。資料の水損レベルはどうか、資料に使われている材料はどのようなものか、資料の現物価値、投入できる費用—等々により、どの乾燥法を選ぶかが決まってきます。
このうち資料の水損レベルは以下の4つに分類できます。
Dry: 水損を全く受けていない
Damp: 全体に湿っている
Slightly wet: 部分的に濡れている
Wet: 全体に濡れている

水損を受けていないDry レベルの資料は、触ってみても湿り気を感じません。しかし、これを被災現場の高い湿度下に放置するとDamp レベルになる可能性が高いので、被災現場から遠ざける必要があります。Damp レベルの資料は触ってみると全体に湿った感じがします。そのまま高湿度の環境にさらされると、やがてカビが発生する可能性が高いです。Slightly wet レベルの資料は、本や文書(綴じられたもの)の小口から内側に1センチぐらい水が侵入した状態です。Wetレベルの資料はさらに水が深く侵入し、最悪の場合には資料全体に水が飽和している状態です。いずれのレベルのものも早い時期に乾燥に持ち込まないとカビが発生します。乾燥だけで資料を完全に元の状態に復することはできませんが、できるだけ早く乾燥処置をとれば、それだけ被害は少なくてすみます。

 

Q2  乾燥にはどのような方法がありますか?

風乾法(Air Drying)
もっとも一般的に使われている方法です。少量(目安としては200冊ぐらい)の Damp あるいは Slightly wet レベルのものに適しています。しかし、大量であっても、他に方法が無く、対応が急がれる場合にはこの方法しかありません。本や文書を、可能ならば立てた状態で、ページを開き、間に吸水紙(ろ紙、ペーパータオル、新聞用紙等)を挟み、扇風機などで風を循環させて、徐々に乾燥させます。特別な設備はいりませんが、絶えず吸水紙を交換したり、乾燥状態をモニターしたりせねばならず、人手がかかります。乾燥後の仕上がりにも限界があります。コート紙の本でページが重なった部分は貼りついてしまい復旧はできません。
除湿乾燥法(Dehumidification)
水損資料も含めて、部屋全体を業務用の大型除湿乾燥機で乾燥させます。除湿機の仕様書通りに温度と湿度をコントロールしなければなりません。Damp あるいは Slightly wetレベルに適します。コート紙、水に敏感なインクや顔料には適しません。量が少なく、外気からの湿気が侵入しない狭い半密閉空間を作れるならば、家庭用の除湿機でも効果はあります。しかし、除湿機乾燥法はむしろ、他の乾燥法、例えば風乾法や冷凍乾燥法等の前処置として適用するのが良いでしょう。
凍結乾燥法(Freeze Drying)
零下10度以下で霜が付かない(frost-free)冷凍庫、あるいは空気循環型(blast)冷蔵庫に入れて水を氷にし、氷から水蒸気に昇華させながら乾燥させます。可能ならば入れる前に歪んだ本や文書のかたちを整え、段ボール等で挟み、幅広のゴムバンドで挟んでおくと良いでしょう。バラの、あるいは閉じた文書ならば、一束の厚みを薄くしたほうが早く乾きます。冷凍庫の能力、資料の量等により、乾燥までは数週間から数ヶ月かかります。

真空凍結乾燥法(Vacuum Freeze-Drying)
大量の水損資料に適しています。専用の籠に入れた資料をチャンバーに並べ、真空で引くとともに温度を0°C以下に保ち、強制的な昇華により水分を除きます。乾燥による変形は生じません。付着した泥等も落としやすくなります。欧米では専門企業があり、経費も比較的廉価に済みますが、日本の場合には業者も限られており、設備費や運転コストもかかることから、 経費が最もかかる方法です。過乾燥による紙の角質化が生じることがあります。

真空熱乾燥法(Vacuum Thermal-Drying)
大量で、貴重な資料よりも一般蔵書向け、Slightly wet あるいは Wetレベルに適しています。チャンバー内で真空に引いた後に一度冷凍以下に温度を下げ、0°C以上に温度を引き上げて乾燥させるのが一般的です。この工程を繰り返すため、変形や輪染みが生じやすいのが欠点です。

 

Q3  東日本大震災での事例は?

以上の方法のうち、コストを気にせず、仕上がりの良さを求めるならば、真空凍結乾燥法が最良と言えます。ただ、今回の東日本大震災の被災資料の救助には、真空凍結乾燥法は、全国規模でも処置能力が限られたこともあり、大半が風乾法で乾燥されています。またもうひとつ、今回の津波に依る被災は、塩水を含んだ本や文書という新たな問題が指摘されます。乾燥させても塩は抜けないので、周辺の相対湿度が高くなると紙にベタつきが生じてくることが指摘されています。また、残留した塩そのものが将来、紙の見た目や強にどのように影響するのか、世界的に例がないだけに、早急な研究が待たれています。

(文責 会員企業 且送ソ保存器材)

 

 

 

 

 


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